叱られる前から耳を閉じる子。

50歳にして初めて保育士にチャレンジしたねずママです。

2021年に保育士試験に合格、昨年春から私立保育園で働き始めました。

 

今のクラスの1番の気掛かりは、Aちゃんという2歳の女の子です。

 

自分がこうしたいという思いが強くある時、それを邪魔されると相手の子のほっぺを鋭い5本の爪でギュッと掴みます。

顔が近い時には噛みつきます。

それはそれはマッハの速さです。

どんなに爪を短く切り揃えても、爪が指から出てしまうタイプなのでやられた子には痛々しいミミズ腫れが残ります。

目に入ったら大変なことになるでしょう。

1日にたびたびあるので、彼女から目を離せません。

担任や他の先生たちが毎度叱るのですが、全く直らないので叱る時間がどんどん長く、強く、そして怖くなっていっています。

部屋の隅に連れて行かれて、1対1で泣いて謝るまで「お話」をされます。

 

担任としては当然他の子を守る必要があるし、そのまま大きくなったら大変な大人になってしまうから、今のうちに何度叱ってでも直さなければ、それが私の使命だ、と考えるのは普通なのかもしれません。

 

しかし、どれだけ気持ちを込めて真剣に話をしても効かないとなると、

「この子は私を舐めてる」とか

「わがままだ」とか

「育てられ方が悪い」などと、

余計な怒りも入ってくるのだろうと思います。

その子だけに時間を割いている余裕がないから、いかに短い時間で解決させるかとなるとキツく叱る意外にないという実情もあるのです。

 

この1年叱られ続けたAちゃんは、次第に叱られると察知した瞬間から大声で泣き出すようになりました。

完全に耳を閉じてしまい、受け入れ全面拒否の姿勢で対抗するようになったのです。

そうなってしまっては、大人が何を話そうが何も響きません。

 

ああ。また同じ光景だ。

私は、自分の子然り、小学校で見てきた子然り、一方的な大人の叱り言葉に耳を塞ぎ、鋭い視線を必死で避けて自分を守る子どもたちを多く見てきました。

 

まだ2歳なのに大人を信用しなくっていく経過が見えて、あらためてショックを受けました。

 

小学校で問題行動を起こしていた子どもたちも、きっと言葉もちゃんと話せないうちから何度も何度も叱られ続け、大人を信じられず、自信をすっかりなくしてしまっていた子も多かったのだろうと思えてなりません。

 

保育園という場所は、子どもの命に関わることがしょっちゅう起きます。

「死が身近に感じられる」とも言えます。

 

だから、常に不安と危険に晒される先生たちは、言葉を選ばずに言えばいつも殺気立っているといっても過言ではありません。

世界で一番凶暴な動物は「幼子を育てている母親」なのだそうです。

常に緊張を強いられる分ストレスがかかり、叱りが増え、虐待に繋がる事件も起きがちなのだろうと思います。

 

まもなく保育士になって1年が経とうとしていますが、私がこの仕事を選んだ意味を改めて確認できました。

 

そうやって幼いうちから叱られ続ける子どもたちが、小学校や中学校に上がってどうなってしまうかを、もっと保育業界は知る必要があると思います。

小学校の先生たちは、「あなたたちの保育が間違っていたから」などとは決して言わないし、そんな証拠もないから気づけないのです。

 

Aちゃんはこのまま変わらなければ、先生が替わる度に叱られ続けるでしょう。

加えて、先生の中には問答無用で強く叱った後に優しい言葉で「あなたのため」と最後締めくくれば自分の愛情や想いが伝わると信じている人も少なくないように思います。

 

これはうちの次男が言っていたのですが、理不尽に叱られた後に甘い言葉を囁かれても「意味不明」なだけ、なのだそうです。

説明なく気持ちも聞かれず、ただ理不尽に叱られた時点で、もうその相手は信じられません。

 

Aちゃんは「問題児」のレッテルを貼られ、それが引き継がれ、どの先生も「この子はこういう子だ」という先入観でAちゃんときちんと向き合わない可能性もあります。

 

今は泣いて耳を塞いでいますが、そのうち自分に都合の悪い言葉はスルーするようになるでしょう。

「ウザっ」と心で呟きながら。

 

そういう未来の可能性が今少しでも見えているなら、早いうちに何とか手を打てないものだろうかと思います。

 

これは私1人でどうにかなる問題ではありません。

Aちゃんに関わる大人全てが、彼女にとってのベストの環境を考えて整え、共通ルールを作り、皆が統一した対応を取らないと、全く効果はないのです。

 

しかしそんなことを今の新人の私が言ったところで「甘やかしている」「叱る勇気がない」「経験が浅いから叱り方を知らない」などと言われてしまうのでしょう。

 

正直、叱るのは簡単です。

大きな大人に、威嚇や恫喝まで行かないにしろ、怖い顔で叱られれば子どもは怖がってその瞬間は言うことを聞くでしょう。

 

小学校に上がるまでの爆発的に成長する大切な期間にそういう不適切な養護教育が行われていることがとても大きな問題なんじゃないかと思えるようになりました。

当の保育士は、当然自分のやっていることが不適切保育に当てはまるとは微塵も思っていません。

「真剣に心を込めて叱ることこそ、教育でありその子のため。正しい道へ導くため」という耳触りの良い言葉を盾に、子どもの"制圧"を無意識に行っているようにも感じるようになりました。

そうしないと安全が守れないほど、どこも人手不足でギリギリの状態なのも事実です。

そんな環境で育ってこれば、小学校以降の不登校やいじめ、他害、自殺などの問題が減るはずありません。

 

先日の虐待事件で保育士が逮捕という衝撃のニュースが伝えられ、ようやく園内の内情も明かされる機会が増えてきました。

これを機に、家庭の子育てから保育施設、学校が今一度どんな風に子どもを育んでいくことが大切なのかを一緒になって考える時期が来ているのではないかと思いました。

 

何年かかるかは分かりませんが、自分の周りから少しずつ、自分の考えを伝えて実践していけたらと思っています。

 

朗らかで伸びやかな毎日を♪